マインドフルネスとは
マインドフルネスには様々な定義がありますが、仙台マインドフルネスオフィスでは、MBSR(マインドフルネスストレス低減法)を開発したジョン・カバットジン(Jon Kabat-Zinn)博士の「意図的に、今この瞬間に、価値判断にとらわれることなく意識を向けていることで生じる気づき」を用いています。この気づきの力が高まると、立ち止まり、日々の忙しさの中にも実にさまざまなものがあることに気づき、今ここで何が起きているかに意識を向け、選択し、これまでとは違うペースで歩みを進める力が養われていきます。
マインドフルネスの瞑想を行うとリラックスできるとか頭がスッキリしたという話を聞く事があるかもしれません。結果的にそのような事が起きることもあるかもしれませんが、それらはあくまでも副産物的なもので、必ずしもそのような状態になることを目指して行うものではありません。実際には、過去の辛い経験を思い出したり、今まで気にも留めていなかった事や自分の嫌な側面などと直面することもあります。それらをあるがままに、ありのままに受け入れて、手放していくことを繰り返し実践していきます。
このような物事の捉え方、ひいては生き方の構えを通して、日常生活上のストレスに対しこれまでとは異なる関わり方・捉え方のパターンを獲得し、生きづらさを少しでも軽くする為に考案されたのがMBSR(マインドフルネスストレス低減法)です。
マインドフルネスがもたらす 心身の健康への効果
近年、マインドフルネスは急速にその名称が知られてきていますが、実は欧米諸国に比べて日本ではまだまだ普及していません。先に普及が進んだ欧米ではマインドフルネス瞑想の科学的な効果を調べる実験や調査が多く行われており、数々のエビデンス(科学的根拠)が報告されています。以下NCCIH(National Center for Complementary and Integrative Health:補完的・統合的健康法に関する科学的研究のためのアメリカ連邦政府主導機関)の報告
- 2018年にNCCIHが支援した、不安やうつ病などの精神障害と診断された参加者142グループを対象とした分析では、マインドフルネス瞑想のアプローチを、無治療の場合と、認知行動療法や抗うつ薬などの確立された科学的根拠に基づいた治療を行った場合と比較した。分析には12,000人以上の参加者が含まれており、研究者らは、不安やうつ病の治療においては、マインドフルネスに基づいたアプローチが全く治療しないよりも優れており、科学的根拠に基づいた治療法と同様に効果があることを発見した。
- 2021年の23件の研究(参加者1,815人)の分析では、不安障害と診断された成人の治療として使用されるマインドフルネスに基づく実践が調査された。分析に含まれた研究では、マインドフルネスに基づく介入(単独または通常の治療との組み合わせ)を、認知行動療法、心理教育、リラクゼーションなどの他の治療法と比較しました。分析では、マインドフルネスに基づくさまざまなアプローチの短期的な有効性について、さまざまな結果が示されました。全体として、不安やうつ病の症状の重症度を軽減するのに通常の治療法よりも効果的でしたが、認知行動療法と同じくらい効果的だったのは一部の種類のマインドフルネス アプローチだけでした。ただし、すべての研究におけるバイアスのリスクが不明瞭であるため、これらの結果は慎重に解釈する必要があります。また、参加者を2か月以上追跡した少数の研究では、マインドフルネスに基づいた実践の長期的な効果は見出されなかった。
- 合計1,373人の大学生を含む23の研究の2019年の分析では、ストレス、不安、うつ病の症状に対するヨガ、マインドフルネス、瞑想の実践の効果が調査されました。結果は、すべての実践にある程度の効果があることが示されましたが、レビューに含まれた研究のほとんどは質が低く、バイアスのリスクが高かったです。
ヘルスケア研究品質庁による2020年の報告書では、マインドフルネスに基づくストレス軽減は腰痛の短期的(6か月未満)改善と関連しているが、線維筋痛症の痛みには関連していないと結論付けています。
- 2020年にNCCIHが支援した、急性または慢性疼痛に対してオピオイドを使用する成人(参加者合計514人)を対象とした5件の研究の分析では、瞑想の実践が痛みの軽減と強く関連していることが判明した。
- 手術、外傷、出産による痛みなどの急性の痛みは、突然起こり、短時間しか続きません。 2020年の19件の研究の分析では、急性疼痛に対するマインドフルネスに基づく療法の効果が調査されましたが、痛みの重症度が軽減されるという証拠は見つかりませんでした。しかし、同じ分析により、この治療法が人の痛みに対する耐性を改善する可能性があるという証拠がいくつか見つかりました。
- 2017年の30件の研究(参加者2,561人)の分析では、マインドフルネス瞑想が他のいくつかの治療法よりも慢性疼痛の軽減に効果的であることが判明した。しかし、調査された研究の質は低かった。
- 2019年の慢性疼痛治療の比較では、慢性疼痛に対する通常の心理的介入である認知行動療法を評価した11件の研究(参加者697人)の全体的な分析が行われた。マインドフルネスに基づくストレス軽減を評価した4件の研究(参加者280人)。および両方の治療法の研究 1 件(参加者 341 人)。比較の結果、どちらのアプローチも、治療を行わない場合よりも痛みの強さを軽減する効果が高いことがわかりましたが、2 つのアプローチ間に重要な違いがあるという証拠はありませんでした。
- 2019年のレビューでは、マインドフルネスに基づいたアプローチでは頭痛の頻度、長さ、痛みの強さは軽減されなかったことがわかりました。しかし、このレビューの著者らは、分析には5件の研究(参加者合計185人)のみが含まれているため、その結果は不正確である可能性が高く、分析から得られた結論は暫定的なものとみなされるべきであると指摘した。
- 2019年に行われた18件の研究(合計参加者1,654人)の分析では、マインドフルネス瞑想の実践が教育ベースの治療よりも睡眠の質を向上させることが判明した。しかし、マインドフルネス瞑想アプローチが睡眠の質に及ぼす効果は、認知行動療法や運動などの科学的根拠に基づいた治療法と何ら変わりはありませんでした。
- 2017年の15件の研究(合計参加者560人)のレビューでは、肥満または過体重の成人の精神的および身体的健康に対するマインドフルネスに基づく実践の効果が調査されました。このレビューでは、これらの実践は食行動を管理するのに非常に効果的な方法であるが、体重を減らすのにはそれほど効果的ではないことがわかりました。マインドフルネスに基づいたアプローチは、参加者が不安やうつ病の症状を管理するのにも役立ちました。
- 2018年に行われた19件の研究(参加者総数1,160人)の分析では、マインドフルネスプログラムが人々の減量と、過食、感情的、抑制された食事などの食事関連行動の管理に役立つことが判明した。分析の結果、正式な瞑想やマインドフルネスの実践と非公式のマインドフルネス演習を組み合わせた、マインドフルネスに基づくストレス軽減やマインドフルネスに基づく認知療法などの治療プログラムが、減量と食事管理に特に効果的な方法であることが示されました。
- 2020年の14件の研究(1,100人以上の参加者を含む)のレビューでは、高血圧、糖尿病、がんなどの健康状態にある人々の血圧に対するマインドフルネスの実践の効果が調査されました。分析では、これらの健康状態にある人々にとって、マインドフルネスに基づいたストレス軽減の実践が血圧の大幅な低下に関連していることが示されました。
- マインドフルネスに基づいた実践に関する29件の研究(合計参加者3,274人)を2019年に分析したところ、がん患者がマインドフルネスを実践すると、心理的苦痛、疲労、睡眠障害、痛み、不安やうつの症状が大幅に軽減されることが示された。ただし、参加者のほとんどは乳がんを患っている女性であったため、他の集団や他の種類のがんでは効果が同様ではない可能性があります。
- NCCIHの支援による2018年のレビューでは、PTSDの症状に対する瞑想(2件の研究、合計参加者179人)とその他のマインドフルネスに基づく実践(6件の研究、合計参加者332人)の効果が調査された。研究の参加者には退役軍人、看護師、対人暴力を経験した人々が含まれていた。 8件の研究のうち6件では、参加者がマインドフルネスに基づいた何らかの治療を受けた後、PTSDの症状が軽減されたと報告している。
- 米国国防総省が資金提供した2018年の臨床試験では、瞑想、健康教育、米国心理学会が推奨するPTSDの治療法として広く受け入れられている長時間曝露療法の有効性を比較した。長期暴露療法は、トラウマ的な記憶、感情、状況を徐々に思い出すように教えることで、PTSD の症状を軽減するのに役立ちます。この研究には、現役の兵役の結果PTSDを患った退役軍人203人が含まれていた。研究の結果、瞑想はPTSDの症状やうつ病を軽減する点で長期暴露療法と同じくらい効果があり、PTSDの健康教育よりも効果的であることが示された。瞑想を行った退役軍人も気分と全体的な生活の質の改善を示しました。
取り組む際の注意点や誤解
短期間での効果を求めてしまう
マインドフルネスは心の状態に関するトレーニングともいえるので、どうしても練習・実践の為に、ある程度の時間が必要になります。てっとり早く効果を得たいという気持ちが強いと変化を感じること難しいでしょう。
リラックスすることを求めておこなってしまう
マインドフルネスは今起こっている事に”気づく”トレーニングであり、その対象は必ずしも心地よいものばかりではなく”あらゆるもの”を”ありのまま”になので、副産物的にリラックスすることもありますが、それを求めておこなうものではありません。
自己流または正規のトレーニングを受けていないインストラクターのもとで取り組んでしまう
上記したように、必ずしもポジティブな事だけが起きるわけではなく、場合によっては過去の辛い記憶が思い出されたり、めまいや吐き気などが引き起こされることもあります。そのような事態にも適切に対処でき、また体系立てて取り組める様に、しっかりとした資格や経験のあるインストラクターの元でトレーニングを行うことが必要です。
重い精神疾患の闘病中に取り組んでしまう
特に妄想や幻覚を伴う重い精神疾患を患っている場合、それらの症状を悪化させる可能性があるので、もし取り組む際には主治医の判断を仰ぐ必要があります。
2つの正規コース
マインドフルネスの体系的な8週間トレーニングコース
マインドフルネス ストレス低減法(MBSR)
MBSR(Mindfulness Based Stress Reduction:マインドフルネスストレス低減法)は、1979年にアメリカのマサチューセッツ大学メディカルセンターのストレス低減クリニックで、Jon Kabat-Zinn博士とその同僚によって開発されたマインドフルネスの8週間集中トレーニングです。
現代の医学ではなんともならない慢性的な痛みを持つ人たちに対して、それを無視したり消し去ろうとするのではなく、うまく付き合っていく・対処していくことを学び、現実的に感じている痛み以外の頭の中で作り出し増幅させてしまっている痛みを軽減することを目的に作られました。
その後、痛みだけでなく、不安や心配、恐れなど、生活していく中で生じるさまざまなストレスに対しても、それらとの関わり方を変えることで生きづらさが低減する効果が医学的・科学的に認められ、医療分野のみならず企業・教育・福祉・スポーツなどさまざまな分野で広く活用されています。
マインドフルネス 認知療法(MBCT)
MBCT(Mindfulness Based Cognitive Therapy:マインドフルネス認知療法)は、心理学や認知療法の研究者ら(Zindel Segal、Mark Williams、John Teasdale)によって開発された、うつの再発予防のための8週間集中トレーニングです。
これまでの研究によって、一度うつ病になると、一旦回復した後も再発・再燃しやすくなることがわかっており、しかも一度目のうつ病の発症より小さな要因に対してもネガティブな思考が発生しやすくなると考えられています。MBCTは、現在うつ病と向き合っている方ではなく、うつ病から回復した後の再発率をいかに防ぐかを念頭に作られたプログラムで、ボディスキャン 、ヨガ、歩く瞑想、座る瞑想などの実践を通じて、うつ病の再発のサインに気づき、より上手に対処できるようトレーニングしていきます。
MBCTの効果については多くの実証研究が行われており、約2年間のうつ病の再発予防に対する抗うつ薬の維持投与と同等の効果も実証されています。このような高いエビデンス(科学的実証)から海外では特に高い評価を受けており、イギリスでは国立医療技術評価機構(NICE)による臨床ガイドラインにより、うつ病の再発予防に効果的な治療法としてMBCTが推奨されています。
受講者の声
MBSR 8週間コースの受講者に 実際の体験を語ってもらいました。
Aさん(40代)
仕事や何か物事を始める前のマインドフルネスに加えて、終わった後に瞑想に取り組むことで、そこで硬くなった体や心をそのまま放置せずマインドフルにほぐすことの予防的な意義を感じました。
ストレスを感じて体が反応した直後に行うケアは、それを後にひびかせない、あるいはストレスの蓄積を軽減してくれるのではないかと感じています。また、毎日の実践は、その日その日の自分の体や心の状態が違うことに気づく良い機会になっています。
日々の慌ただしさの中でも、生活の出来事一つ一つをマインドフルに過ごしていくことができるとよいなぁと感じています。
Mさん(50代)
私は何度かこのMBSRを受講しています。MBSRを受講するたびに自分自身への新しい発見があります。自分への信頼が深まり、起こることに対してや自分の感覚に対する気づきが新鮮に捉えられるのは非常に興味深いものです。
何かにこだわることで自分を見失うというような経験はかなりなくなってきたので、ストレスは以前に比べて減っていると感じます。
コースの中で、自分に起こっている感覚を俯瞰して見られるように講師の先生がわかりやすくレクチャーしてくださったので、日常生活に戻っても、折に触れて自分自身を観察するのに役立っています。